破壊的リーダーシップ(2):リーダー、追従者、環境(その2)

この破壊的リーダーシップの3要因説(毒の3角形説)を図にしたものが図2です。この説は環境要因に加え、リーダーが、例えば、権力を自分のために使う、カリスマ性が高い、自己愛が強い、他者への共感性が低い、嘘をつくことに罪悪感がないなどの人格特性を持ち、リーダーの指示や要求に(たとえ倫理的に問題があっても)簡単に従ってしまう従順追従者や一緒に破壊的な行動(ハラスメントや不正など)を行う共謀追従者がいるとき破壊的リーダーシップが起こりやすいということになります。(カリスマ性の問題点と追従者の特徴の分析はまた次の機会に述べます。)

さて三菱電機の例で上記3つの要因、特に環境が破壊的リーダーシップ行動に与える影響を考えてみます。(リーダーの人格特性や追従者について公開された情報がほとんどないので、環境を中心に議論します。)「30年以上、不正検査をしていた」、「8年で自殺5人も」という記述が正確だったとします。(もっとも不正検査は証明できますが、上司のハラスメントが原因で自殺したかどうかを証明することは難しそうです。)長年にわたり不正検査が行われ、上司のパワハラが行われていたことは、破壊的リーダーシップを長年にわたって許す文化が組織の中にあった(あるいは今でもある)と想定できます。このような問題を起こす組織には、「生産性を高めるためには相手(部下や取引先)を傷つけてもよい」という考え、「部下を使うには破壊的リーダーシップが効果的だ」という考えがある、とされています。4)

このような考えは破壊的リーダーシップを使っている上司が許されてきた企業、一時的にしろ破壊的リーダーシップで利益が上がった経験がある企業、倫理的に問題があっても利益を優先する企業で広がりやすいと考えられます。人間は(多くの動物も)周りを観察することによって自分のすべき行動を決める(社会学習を行う)という特性があるためです。
このような考えはある時(最初からかもしれませんが)組織の中に現れ、次第に従業員に広がって(追従者が増えて)その組織内の共通の規範(ルール)(組織文化)になっていったと考えられます。多くの場合、破壊的人格特性を持ったリーダーから始まっているでしょう。もちろん途中で不正行為やハラスメントは許されないということでリーダーに異議申し立てをした人はいたでしょうが、少数派でありその組織を変革するまでには至らなかったというわけです。むしろそのような人は組織を離れていくと考えられます。とすると現在残った人は組織の共通規範を受け入れた人々です。一回規範が出来上がるとそれがその組織内での標準的な行動となり、破壊的リーダーシップ行動は続き、何らかの形で表面に出たときにその組織に損害を与えます。

しかしながら破壊的リーダーシップ行動を共通の規範とした組織が、「法律を犯してまで利益を追求することは好ましくないし、部下の健康を損ねるようなリーダーの行動は好ましくない」というような社会の規範の変化をすぐに受け入れられるものでしょうか。組織内の人々は、異議申し立てをした人がその組織内の共通規範を守れなかった人として不当に扱われるのを観察していたはずです。またリーダーと一緒に破壊的行動に参加した追従者としての部下もいたはずです。このような環境にある組織では、たとえ外部の圧力(社会規範)が加わったとしても、破壊的リーダーシップ行動が抑制できるかは難しいように思われます。6)問題が表面化したときには組織の“悪しき”規範を修正することがより大事であるにも関わらず、組織は規範を守るために表面に出した個人や集団に攻撃の矛先を向けることをわれわれは目撃してきました。事例を挙げるまでもないと思います。三菱電機はどのようにして自身の従来の組織文化を変えていくのでしょうか。注目してみておきましょう。(組織文化の変容を促す方法についてはまた別の機会に議論します。)

 

・組織に損害を与える破壊的リーダーシップ行動は、リーダーの人格特性、追従者の存在、周囲の環境の3つの要因の相互作用である

・リーダーの破壊的行動を促進するものたち(追従者)がいる

・破壊的リーダーシップ行動を防ぐには組織文化の変容も重要である

 

参考文献

1)三菱電機 鉄道向けの空調設備で検査不正 30年以上か. NHK, 2021.06.30, News Web, https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210630/k10013110711000.html (参照 2021.7.17)

2)三菱電機「8年で自殺5人」 何とも異常すぎる職場  長時間労働が横行、「殺す」と脅すパワハラも.週刊東洋経済, 2020.03.18 , 東洋経済オンライン https://toyokeizai.net/articles//337667?utm_source=Twitter&utm_medium=social&utm_campaign=auto (参照 2021.7.17)

3)Einarsen, S., Aasland, M. S., & Skogstad, A. (2007). Destructive leadership behaviour: A definition and conceptual model. The Leadership Quarterly, 18(3), 207-216.

(この論文はリーダーが取る行動を組織に向けた行動の軸と部下に向けた行動の軸を組み合わせて破壊的リーダーシップ行動を定義し、理論的な議論を展開している。この論文によれば、組織にも利益をもたらし部下にも共感性を示す行動が建設的リーダーシップ行動であり、組織には利益をもたらしうるが部下に攻撃性を示す行動、組織に対して不正を働く行動が破壊的リーダーシップ行動である。)

4)Krasikova, D. V., Green, S. G., & LeBreton, J. M. (2013). Destructive Leadership: A Theoretical Review, Integration, and Future Research Agenda. Journal of Management, 39(5), 1308–1338. https://doi.org/10.1177/0149206312471388

(この論文はリーダーが部下をいじめようという明白な意思があるときの行動のみを破壊的リーダーシップと定義し、リーダーがそのような行動を起こすのは、リーダーの人格特性と組織の規範との相互作用であると主張している。)

5)Padilla, A., Hogan, R., & Kaiser, R. B. (2007). The toxic triangle: Destructive leaders, susceptible followers, and conducive environments. The Leadership Quarterly, 18(3), 176-194.

(この論文は破壊的リーダーシップ行動にはリーダーの人格特性や追従者の存在、リーダーに破壊的行動を引き起こさせるような環境が影響していることを主張している。この論文はまた、破壊的リーダーシップ行動はリーダーの人格特性を中心にした研究はもちろんのこと、リーダーと追従者、環境との相互作用を研究すべきだとしている。)

6)Thoroughgood, C. N., Sawyer, K. B., Padilla, A., & Lunsford, L. (2018). Destructive leadership: A critique of leader-centric perspectives and toward a more holistic definition. Journal of Business Ethics, 151(3), 627-649.

(この論文は論文5の主張を展開し、破壊的リーダーシップ行動の3つの要因の相互作用をより詳しく理解するための理論的枠組みを提供している。)