破壊的リーダーシップ(2):リーダー、追従者、環境(その1)

最近大企業の不祥事が目につきます。例えば、2021年6月30日にNHKが『三菱電機鉄道向けの空調設備で検査不正 30年以上か』 というタイトルで、 三菱電機の不祥事を報道しました。1) さらに、2020年3 月18 日の東洋経済電子版には『三菱電機「8年で自殺5人」何とも異常すぎる職場 長時間労働が横行、「殺す」と脅すパワハラも』 という記事が掲載されました。2) これは上司のパワハラによって自殺に追い込まれた(であろう)事例、および劣悪な労働環境の報道です。

本エッセイでは、このような不祥事は、上司(リーダー)が組織を効果的に運営できなかった結果、組織に損害を与えたという意味で、破壊的リーダーシップの結果であると考えます。この考えはEinarsenら (2007)3によって提案されました。彼らはリーダーが行う行動(リーダーシップ行動)を組織の目標、組織の課題、組織の効率に向けられた行動(図1の横軸)、部下に向けられた行動(図1の縦軸)からなる2つの次元で説明しました。

まず図1の横軸を考えてみます。組織に関連したリーダーの行動です。横軸の左側は反−組織的行動と呼ばれる行動です。組織の正当な利益を奪うような行動、例えば組織から物品、時間、お金を盗む、組織の長期的目的とは異なる自分の目的のために働く、部下の仕事を妨害する、あるいは汚職を行うなどが含まれます。いわゆる非生産的職務行動です。
また横軸の右側、親-組織的行動には会社の長期的目標の達成に向かって明白で曖昧さのない下位目標を設定し、それらを実現させるための戦略を作り、組織の変革を行う行動です。

次に縦軸を見てみましょう。リーダーの部下に対する行動です。縦軸の上側、反-部下的行動は、部下の仕事の動機づけを低下させ、健康や幸福を奪い、仕事の満足感を低下させるなどの行動であり、最終的に組織の正当な利益を奪うものです。部下をいじめたり、ハラスメントを行ったり、非礼な行動を行ったり、虐待したりする行動も含まれます。
また縦軸の下側、親-部下的行動は部下の仕事の満足感、仕事への動機づけを高める行動のことです。そのような行動とは、例えば、部下の声に耳を傾け、必要に応じアドバイスし、評価・賞賛を与え、彼らを支えるような行動です。部下の精神的、肉体的健康に留意する行動も含まれます。彼らのモデルの特徴は、非生産的職務行動(部下との関係はよいが組織に不正を働く「支持的‐不誠実」リーダーシップ行動と、部下にも攻撃的で組織に不正を働く「脱法的」リーダーシップ行動)に加え、 “一時的には”利益を与えるとしても部下に対して攻撃的に振る舞う(例えばハラスメントなど)「専制的」リーダーシップ行動も破壊的リーダーシップ行動と呼んだ点です。この行動は長期的には組織に好ましくない影響があることはわかっています。(「建設的リーダーシップ」については別の機会に説明します。)

ただし破壊的リーダーシップの定義は研究者間で一致しているわけではなく部下を意図的に(肉体的、精神的に)いじめる行動だけを破壊的リーダーシップとする研究者もいます。4)この考えによれば、(もし検査不正を歴代の社長が知らなかったとしたら)、意図的に部下に不正を命じたわけではないので破壊的リーダーシップとは呼ばず、ただリーダーが無能であった、ことになります。

破壊的リーダーや無能なリーダーが組織にとって有害なら見つけ出して排除すればいいと思いますが、話はそう単純ではないことがこのところ明らかにされつつあります。たとえ破壊的な行動を行いやすい人物がリーダーになったとしても、彼あるいは彼女を支持する人々が(追従者)がいなければ、破壊的リーダーシップは生まれません。つまり破壊的リーダーにはそのエネルギーとなる人物群があるのです。またこの人物群とは別に、組織を取り巻く環境もリーダーが破壊的リーダーシップ行動を行いやすくなる条件があります。例えばリーダーに権力を過度に集中する組織(権力の暴走を止める制度のない、あるいは制度が有効に機能しない組織)、や時代状況です。一般には世界が安定しない不安な時代(例えば不況時や戦時など)には破壊的リーダーが生まれやすいこともわかっています。つまり、3つの要因(リーダーの破壊的人格特性追従者の存在環境)の相互作用が破壊的リーダーシップ行動を生み育てるのです5)
(この項、続く)