破壊的リーダーシップの全体論的研究
1.破壊的リーダーの特徴
1) 破壊的リーダーシップの全体論的研究
破壊的リーダーシップ研究のうち今回は全体論的研究について紹介します。全体論的研究では破壊的リーダーシップは3つの要因の相互作用によって生じると仮定されています。破壊的リーダー、追従者、環境です。この説は自分の利益のために反社会的な行動を行う破壊的リーダーがいたとしても、彼らだけでは破壊的行動は生じないと仮定しています。 破壊的リーダーに追従する者がいて、また破壊的行為を許す環境があってはじめて成立すると考えるのです(図1)。たとえば破壊的リーダーがその本領を発揮するには彼らを支持し、彼らの希望に沿って動いてくれる人々が必要です。またリーダーの破壊的行動に注意を払わないような組織ではより起きやすいでしょう。全体論者は、リーダーの特性だけに注目するようなリーダー中心論的研究だけでは、破壊的リーダーシップの生起メカニズムを解明することは困難で、問題の解決にはつながりにくいと主張します。
組織にとって有害なリーダーが出てくれば見つけ出して排除すればいいと思いがちですが、全体論を考えると、話はそう単純ではないことがわかります。たとえ破壊的リーダーがいなくなっても、かつて彼らに従うことで何らかの利益を得てきた人々(追従者)は残るし、破壊的リーダーの暴走を許した組織の制度、組織の雰囲気(文化、風土)は残ります。このような環境は新しい破壊的リーダーを育てる土壌となりうるので、リーダーを変えることが問題解決に繋がるかは難しいところです。以下に全体論が考える、破壊的リーダー、追従者、組織の各要因について概説していきたいと思います。
2) 破壊的リーダーの特徴
破壊的リーダーのどの特徴に着目するかで、その定義が違ってくるので一概には言えませんが、ここではPadilla ら (2007) は、
・カリスマ性(charisma)
・権力への個人的欲望 (personalized need for power)
・自己愛 (narcissism)
・否定的な生活史(negative life themes)
・憎しみのイデオロギー(ideology of hate)
の5つを破壊的リーダーの特徴として挙げています。
カリスマ性:カリスマ性は、言葉や態度で追従者を熱狂させ、彼らの人生の目的がリーダーのそれと同じだと信じ込ませる能力と定義されています。一般にはカリスマ性が高いと言うことはリーダーの特性として好ましいとされますが、必ずしも人格の高潔を意味せず、リーダーとしての能力が高いかどうかもわかりません。ダークトライアッド(関連文献1)の項でも述べたように、ナルシスト(関連文献2)やサイコパス(関連文献3)であるリーダーはカリスマ性が高いですが、破壊的な行動も示しやすくなります。もちろんカリスマ性の高いリーダーが全員破壊的であるわけではありませんが、ほとんどの破壊的リーダーはカリスマ性が高くなります。
Padillaら (2007) によれば、カリスマ性には3つの要因(世界観、自己提示技術の高さ、熱心さ)があります。これらの要素はカリスマ性の高い破壊的リーダーと建設的リーダーに共通ですが、破壊的リーダーは世界を「危険であり不安定である」と捉えます。そのために個人の安全はライバルを支配し、打ち負かすことができるかどうかに依存すると考えます。一方建設的リーダーは社会に利益を与えるような世界観を提示します。破壊的であれ、建設的であれ、カリスマ性の高いリーダーはまた、自分を劇的に表現したり、言葉で他者を動かしたりする能力に長けており、自己提示能力が高いとされています。しかし破壊的リーダーは自己中心的性癖を持つので、社会に向けてではなく、自己宣伝や自身への支持に関心を持ちます。かれらは基本的に他者への興味がありません。さらにカリスマ性の高いリーダーはエネルギッシュでもあります。この特性もまた人々を惹きつけると考えられます。たとえリーダーが破壊的であったとしても。
個人的欲望のための権力:倫理的なリーダーは他者への配慮ができるけれど、破壊的リーダーは他者への配慮をすることが得意ではありません。破壊的なリーダーは基本的には自分に興味があるので、自分の個人的欲望のために権力を行使します。彼らは欲望を満たすためには反社会的な行動を伴うことも気に留めませんし、権力の行使の結果、部下や組織そのものが傷つくことを厭いません。一方建設的なリーダーは他者へ奉仕するために権力の行使を行う、つまり向社会的な行動を行うと考えられています。
自己愛:自己愛が破壊的リーダーの特徴の1つであることは、リーダー中心論的研究でもすでに述べました。この特徴は上記の2つの要因にも関連していますが強い自己愛を持つ(ナルシストである)リーダーは自分の能力を過大に評価し、権利を主張し、自己中心的です。同時に自分は能力が高いと信じているので他者の意見を聞かないし、他者を支配、搾取、傷つけても構わないと感じています。ナルシストであるリーダーは、組織や他者より(場合によっては、法律より)自分が上位にあると考えているので、独裁的に振る舞うことが多く、様々な反社会的な破壊的リーダーシップ行動を取る可能性が高いと予測されます。
否定的な生活史:否定的な生活史とは小さいときの虐待、貧困等の不幸な経験のことを言います。Padilla らは、小児期に不幸な経験をしたリーダーは、周囲の世界を破壊的だと見るようになり、そのような世界から離れ他者に無関心になり、結果として他者の感情を無視したり、自分の個人的利益のために他人を陥れたりする行動傾向を生むとしています。もちろん多くの人々が否定的な生活史を乗り越え社会生活を営んでいるわけですから、この考えの妥当性は今のところまだはっきりしません。しかしこの考えは、小さいときに養育者から不当な扱いを受けたリーダーはそうでないものよりも侮蔑的管理をしやすいという事実とは一致します(Kiewitz et al., 2012)。侮蔑的管理とは「リーダーが敵意ある言語的あるいは非言語的行動を通して管理していると(部下が)感じるような」管理手法のことです(Tepper, 2000)
憎しみのイデオロギー:憎しみのイデオロギーとは、破壊的リーダーが持つ、競争相手に対して持つ憎しみのことです。この特徴は、否定的な生活史やカリスマ性とも関連します。建設的リーダーに比べ、破壊的リーダーの演説や世界観は他者への憎しみを含んでいます。嫌悪する敵を破壊し、打ち負かそうとするとき、容赦がありません。それは独裁者(たとえばヒットラーやスターリン)にも、あるいは不祥事を起こした企業のリーダー(たとえば、Enron社のCFO Andrew Fastow)にも共通に見られた傾向です。
破壊的リーダーの特徴に関するPadillaらの主張は興味深いですが、彼らが挙げた特徴が破壊的リーダーの指標として十分かは議論の分かれるところです。というのはリーダー中心論的研究では破壊的リーダーの特徴(特性)に関して多くの研究があり検査法もいくつか提案されていますが、全体論にもとづく破壊的リーダーの検査法の研究はまだ数が少ないからです。
関連論文
