破壊的リーダーシップ

破壊的リーダーシップ(1):超俺様主義者(ナルシスト型)

このところコンパニオンを伴っての宴会や夜の繁華街での飲酒が明らかになり非難されている議員さんを見かけます。村会議員から国会議員までさまざまです。国民に対して、コロナを広げないために飲食を伴う多人数での宴会を避けるように呼びかけていながら、なぜ彼らはそんなことができるのでしょう。なぜ平気なのでしょう。なぜ想像を働かせられないのでしょう。

このことを説明する考えがあります。私たちは、「自分は能力が高い。自分には自信がある」と自己主張する人たちをリーダーとして選びがちだ、という考えです。「自信がある」という自己主張と本人に「リーダーとして能力がある」か、は別のことであるにも関わらず、特に自己愛の強い人々(ナルシスト:ここでは超俺様主義者と呼ぶことにします)は、自分は能力が高いと信じていますから弱気を見せません。偉そうに振る舞います。自分を批判する人々とはとことん戦います。そんな人に出会うと、選ぶ方はつい「リーダーにいいのではないか」と考えて…投票します。そして彼らは議員になります。さて議員になった超俺様主義さんたちは自信がありますから、「私は選ばれたものである。自分は能力が高い。自分がコロナにかかるはずがない。」と考えがちになるのも理解できます。超俺様主義者の特徴の1つは他者に対する「共感性の欠如」です。ですから、自分の行動が他者に迷惑がかかるかもしれないから、と考えて行動することができません。そう考える思考の回路がないか、回路の感度が低いということです。もちろんこれは説明です。説明できるだけですから、他にもっといい説明があるかもしれません。

私はこの考え方を、ビジネス心理学の教授であるチャモロ-プレムジック博士が出版したリーダーシップに関連した本1)で出会いました。彼は自信過剰と自己愛がリーダーシップの暗黒面を引き出すと主張しています。(暗黒面を引き出すものは他にもあります。) 彼は、私たちには自信過剰な人物をリーダーに選ぶ傾向があり、結果として適性のない人物たちをリーダーに選んでいると主張しています。これまでの研究によれば、能力が高いという自信と実際の能力には乖離があることがわかっています。

このようなリーダーは議員だけではなくいろいろな組織にみられます。従来産業心理学領域におけるリーダーの研究では、どうやって部下のやる気を引き出し、組織の生産性を高め、企業の利益に貢献するかということに着目してきました。いわゆる建設的リーダーシップの研究です。ところが最近、破壊的リーダーシップ、あるいは毒的リーダーシップと呼ばれる好ましくないリーダーシップにも着目が集まるようになりました。というのは、最初は有能に見えても、1)自分にしか興味がなく、部下に対し暴力的で彼らのやる気をなくす、あるいは2)法令に反し会計を操作したり会社の所有物を私物化して会社に損害を与えるリーダーが目立ってきたからです。もし仮にカルロス・ゴーン氏が有罪ということになれば、彼は会社の利益を私物化するタイプの破壊的リーダーということになります。彼は最初のうちコストカッターとして評価されていた記憶があります。短期的に部下を鼓舞し業績を上げることができたとしても、部下が疲弊したり自分たちは大事にされないと感じて転職すると、長い目でみたとき会社の利益にはなりません。と言うのは転職者が多い会社は新しい従業員を雇うためのコストがかかるし、あるいは法令違反を指摘されるような会社では会社全体の雰囲気が悪くなり、従業員全体の動機づけや生産性が下がっていきます。さらに場合によっては会社の評判が悪化し株価に影響することにもなります。

もっと大きな枠組みで考えると、この破壊的リーダーシップによって会社だけではなく社会も損失を受けます。経済的な側面に絞って考えてみましょう。たとえば、精神的あるいは肉体的に疲弊した部下の健康保険の費用の一部は国民が払うことになります。国民からすれば、部下が破壊的リーダーシップに出会わなければ必要のなかった経費です。またこの部下たちが破壊的リーダーによって邪魔をされなければ生み出していたはずの利益も失われたことになります。

このように考えると破壊的リーダーシップは、会社や従業員にダメージを与えるばかりではなく、社会にもダメージを与えることがわかります。それではどうするのだ、という話はまた次の機会にしましょう。どのようなリーダーの特性が建設的なのか、そのようなリーダーをどのように発見するのか、リーダーの特性は変わるのか、破壊的リーダーをどのように見分けるのか、といったような話になると思います。ここでお伝えしたいことは、議員の例にも見られるように、わたしたちは一般的に、自己評価の高い自信家をリーダーとして選ぶという癖(偏見)があるのです。当たり前ですが、私たちがリーダーを選ぶときには実際に組織を運営する能力が高いということを基準にすべきです。

 

・自信家であることと能力が高いことは一致しない。

・自信家は他者に能力を高く“見せる”ことを好むし、そのことに長けている。

・リーダーを選ぶときには直感に頼らない。

 

◆参考文献

  • Chamorro-Premuzic, T. (2019). Why do so many incompetent men become leaders? :(And how to fix it). Harvard Business Press (チャモロ=プリミュジック 藤井 (訳) (2020).なぜ、「あんな男」ばかりがリーダーになるのか 実業の友社).

この本はどのような特性を持ったリーダーをどのように選ぶかについて色々なヒントを与えてくれます。タイトルから「男がどうだ、女がどうだ」と言うことが書いてあると感じる方もいらっしゃるとは思いますが、この本の著者の意図は「有能なリーダーの選び方を示したい」ということです。われわれには最初に見たり聞いたりした言葉でものごとを判断するような傾向があるので、読んではいない本の内容をタイトルで判断します。ですからタイトルは重要です。本のタイトルが私たちの判断に対して持っている効果をフレーミング(枠組み)効果と呼びます。フレーミング効果は相手を説得するときに使われる方法の1つです。この話はまた別の機会にいたします。

文責:下野孝一

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