態度変容とオリンピック:認知不協和、自己知覚、古典的条件づけ、二重過程を使った説明
本日はオリンピックの最終日です。オリンピックが始まる前「誰かが金メダルを取ったら雰囲気が変わるだろう」と言った意見がありました。この意見は心理学的観点から見ると充分に頷ける意見です。というのはオリンピックをめぐるここまでの状況は、人間に態度変容を促すために、広告、宣伝、選挙、営業、販売などで使う方法と似ているからです。
今回のエッセイでは、オリンピックを使って、態度変容に関する概念について簡単に触れてみたいと思います。経営に携わる方々にとって、態度変容についての知識は有用だろうと考えています。実際その方法を使うかどうかは別にして。
さて他人の態度を変えるにはどうすればいいでしょうか。一生懸命説得するのが良い方法のように思います。しかし以下で議論するのは環境を操作することで、相手の態度をある程度変える方法です。この方法だと人々は無意識のうちに態度を変えますから、自分の態度変容を他人が意図的に起こしたとは思いません。その意味でちょっと危険な匂いもする方法です。
説明には4つの概念(とその組み合わせ)を使います。ただし以下の説明は私の個人的意見です。
最初の概念は認知不協和理論と呼ばれるものです。この理論は、
1)人間は「自分の考え」と「自分がやった行動」に矛盾があると不快さを感じる、
2)不快感を自動的に無意識のうちに解消しようする、
と仮定しています。
解消しようとするとき、人間は、考えと行動のうち、より変え易い方を変えます。
一般に、「自分がやった行動」に比べ「自分の考え」の方が変えやすいと考えられています。
というのは、「自分の考え」は自分の内側の問題ですが、「自分の行動」は事実です。事実は変えにくいのです。ということは、認知不協和理論 によれば、最初オリンピックに反対する気持ち(考え)があったとしても、自分がオリンピックを観戦している(行動)という事実の前には、反対する気持ちを変える確率が高くなります。(必ずそうなる と言うわけではありません。確率的な問題です。)
同じような説明に自己知覚理論というものがあります。
この理論では、人間は内側に「自分を観察する自分」がいて自分の行動を観察し、自分の考えを推定していると仮定しています。この理論によれば、もし最初はオリンピックに反対という考えがあったとしても、オリンピックを見ている自分を観察したもう1人の自分は「私は好きだったんだ」と考えを変えると予測されます。
自己知覚理論と認知不協和理論のいずれがより妥当性があるかは分かりませんが、共通するのは「自分の考え」は「自分の行動」で変容される ということです。
ですから外側から人々の行動を変えることができれば、ある程度人々の考えを支配できることになります。
オリンピックに関して言えば、「オリンピックを観戦する」という行動を人々が行えば、(観察しない場合に比べて)彼らの考えが変わる確率が高くなるというわけです。
認知不協和理論に基づいた交渉や営業の仕方にはいろいろありますが、たとえば、百貨店での試食を考えてみましょう。最初は買うつもり(考え)がなくても、足を止めて試食した(行動)と、認知不協和が生じると予測されます。人々はこの不協和を低減するために考えを変えて購買するかもしれません。この営業法は、購買する可能性を高めることを期待して行われています。
次は古典的条件づけによる説明です。
例えばオリンピックを観戦していた時に感動的な 場面、あるいは日本の選手がメダルを取る場面に出会った時、 多くの人は心を揺さぶられます。
動物(人間を含みます)は2つの事柄が同時に、あるいは続けて提示されると、その2つの事柄を無意識のうちに頭の中で繋げてしまいます。
これは古典的条件づけと呼ばれる学習の種類です。特に繰り返し掲示されるとその結びつきは強くなります。オリンピックを観戦している時に 感動的な場面に何回も出会えば、頭の中に「オリンピック=感動」という図式が出来上ります。ですから「オリンピック」のことを考えると「感動」、「高揚感」が自動的に出てくることになります。
このような図式が出来上がった頃を見計らって、「今回、オリンピックを開催したことをどう思いますか」という質問をすれば、「よかった」という反応が増えるであろうことは想像に難くありません。というのは人間の判断は、論理的というむしろ感情的になされやすい場合があるからです。
人間の判断は二つの経路(システム1とシステム2)で行われるという説(二重過程理論)があります。
システム1とは自動的で無意識に、感情に従ってすぐに判断する経路で、システム2とは意識的に論理的にゆっくりと考えて判断する経路です。
人間がいずれのシステムを使うかは状況や個人によってさまざまですが、「オリンピック=高揚感、感動」の図式が出来上がっている状況では、多くの人々がシステム1を使った判断をすると予測できます。
感情を揺さぶってから相手を説得するというやり方は、極端な例では詐欺などでも使われるやり方だと私は考えています。おそらくシステム1の活性化は論理的に考えて判断するシステム2の働きを低下させる方向に働くのだろうと思います。さらに1回自分の行動を決める(詐欺を信じる)と認知不協和が働いて自分が間違っているかもしれないという考えを受け入れにくいのです。
この古典的条件づけとシステム1の特徴を利用した営業方法はCMです。好ましい感情を生む刺激と商品を組み合わせると古典的条件づけによって、商品を見ると好ましさの感情が沸き上がります。CMは感情が商品の販売に影響することを期待しているのです。好ましい感情を生む刺激としては、美男美女、有名人、感動的なシーンなどです。CMに芸能人やスポーツ選手が使われる理由です。
以上、態度変容の説明にオリンピックを使いました。
説明はコロナの状態がこれ以上悪化しなければという前提のもとです。説明に使った概念は態度変容の説明によく使われるものですが、悪化すれば「オリンピックを開催したことをどう思いますか」という質問への答えも変わってくるでしょう。
なぜなら悪化が続けば、「オリンピック=感動」の図式が壊れてくるでしょうから。
