破壊的リーダーシップのリーダー中心論的研究:特性論(1) 4.マキャベリアン 1)マキャベリアンの下位概念
4.マキャベリアン
サイコパス(精神病質者)やナルシスト(自己愛者)と異なり、マキャベリアン(マキャベリ主義者)は精神医学で使われる用語ではありません。この用語は、中世のイタリア人マキャベリ(1469-1527)の名前に由来したものです。彼はルネサンス期、フィレンツェ共和国の外交官であり、君主は国を守るためにどのような戦略を用いるべきかを説いた人物です。彼の考えは、政治的に必要があれば、自分の利益のために戦略的に他者を操作しても構わない,そのための手段は非倫理的、反社会的であっても構わないというものです。彼の思想を体現した人々をマキャベリアンと呼びますが、マキャベリアンは自分の利益のために他者が不幸になっても気にしない共感性が低い人々とされています。本稿ではマキャベリアンというとき、それはマキャベリアン得点の高い人々を意味します。もちろん極端なマキャベリアンが精神医学の対象になることはあります。
1)マキャベリアンの下位概念
心理学者が「マキャベリアン」を研究する場合、ダークトライアッド[関連論文1を参照]の研究と同様、質問紙法を使うのが一般的です。いくつかの検査や考え方がありますが、本稿ではDahling, Whitaker, & Levy (2009) の考えを紹介します。彼らは、マキャベリアンは4つの下位要素からなると仮定しています。それらは
・他者への不信(distrust others)
・反道徳的操作(amoral manipulation )
・支配欲(desire for control)
・地位欲(desire for status)
の4つです。「他者への不信」とは他者が自分と同じような動機を持ち行動をすることを恐れて他者を信用しないということです。マキャベリアンは他者の意図や行動によって自分にとって不都合なことが起こることを嫌います。「反道徳的操作」とは、利益を得られるチャンスが現れたときには、たとえ反道徳的な方法を使っても、躊躇なく他者を操作するということです。「支配欲」というのは対人関係において他者を脅威とみなすために、優位に立とうとして他者を支配しようとすることです。「地位欲」というのは、富や権力、地位といった目標を追求することです。彼らは、自分の可能性を追求して自己実現をしたいというような目標ではなく、周囲が認めた外的な基準を目標として、それらを追求します。
マキャベリアンの下位要因のうち、他者を騙し操作することを厭わないという点はサイコパスと似ています。事実、サイコパス得点とマキャベリアン得点は中程度の相関があります。しかしサイコパスは、たとえその行動が自分にとって不利益をもたらすかもしれないとしても、それを抑制できない場合がありますが、マキャベリアンは自分に不利になるようならば自身の行動を制御できると言われています。またかつてはマキャベリアンもサイコパスも認知的共感性[関連論文2を参照]を獲得していると言われていましたが、今までの研究をまとめた結果、そのような関係は見つかっていません(Blötner, Steinmayr, & Bergold, 2021)。一方で、マキャベリアン得点と情動的共感には負の相関があること、つまりマキャベリアン得点が高ければ他者により冷淡に振る舞うことは確認されています。
マキャベリアンの職場での働き方を2つの指標(課題遂行と組織市民行動)で調べた研究 (Zettler & Solga, 2013)では、課題遂行はマキャベリアン得点と緩い負の相関がありました。課題遂行 (job performance)とは契約通り働いているかに関連した指標です。この研究結果はマキャベリアン得点が高いときちんと働かなくなる可能性が高くなることを示しました。一方組織市民行動 (organizational citizenship behavior) の場合、マキャベリアン得点が中位の人が最も組織市民行動を起こしやすく、高い人ほど起こしにくいことが示されました(図1)。組織市民行動とは、賃金に影響がなくても自分の意思で、困っている同僚、上司、取引先を助ける、組織の発展のために、あるいは組織をより働きやすくするために新しい提案を行うなどの行動が含まれます。組織市民行動は企業の利益と相関があることが知られています。これらの結果は、マキャベリアンは職場に否定的な影響を及ぼす傾向があることを示しています。[組織市民行動についての議論は、田中(2012)や柴田・上林(2019)が参考になります。]
関連論文
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