破壊的リーダーシップのリーダー中心論的研究:特性論(1)3.ナルシスト -1)ナルシストの下位概念
日常会話で「ナルシスト」と聞くと、ちょっとうぬぼれ屋で自信家を連想します。当たり前ですが、多くの人は自分が好きです。たとえ一時的に自分が嫌いになったとしても。もし自分が嫌いになったら生きていくのが辛くなりますし、ちょっとの自惚れは“普通”です。しかし精神医学や心理学で使われる「ナルシスト」は、日常使われるナルシストとは少しその意味が変わります。簡単に言えば自己愛の程度が激しいということです。精神医学の文脈で使われる「ナルシスト」は自己愛性パーソナリティ障害を持つ人々のことです。サイコパスと同様、その症状に応じ医者が診断を行います。診断にはいくつかの診断項目があります。その中の一定の項目数以上の行動を患者が行なった(と医者が判断した)時に、「自己愛性パーソナリティ障害がある」という診断が付くのです。以下の議論で扱うナルシストは必ずしも精神医学の治療対象となるような人々ではありません。
1)ナルシストの下位概念
心理学者が「ナルシスト」を研究する場合、DTやサイコパスの研究と同様、質問紙法を使うのが一般的です。いくつかのテストや考え方がありますが、ナルシストも1つの人格特性というより、いくつかの下位要素からなっているという考え方が一般的です。本稿ではAckermanら(2011) のモデルを中心に紹介します。彼らはナルシストを3つの下位要素の複合体として定義しています。それらは
・リーダーシップ/権威 (Leadership/Authority)、
・誇大な自己顕示欲 Grandiose Exhibitionism)、
・特権意識/搾取性 (Entitlement/Exploitativeness)
の3つです。「リーダーシップ/権威」の要素は、自分がリーダーになりたいという、権威や権力を強く求める動機からなっています。この要素の強い人は自己評価が高く、神経症的な傾向、不安傾向が低いという特徴を持ちます。「誇大な自己顕示欲」というのは、自分の能力を過大に評価し、他者にそのことを示したいという欲望です。常に話題の中心にいたい、他者に自分の能力を誇示したいという感覚は自己陶酔、虚栄心、うぬぼれ、優越感などと関連しています。この要因はまた、自分を演出する能力とも関連しています。ただこの強い自己顕示欲の底にはしばしば不安定な自己概念が隠れていることも示唆されており、彼らが他者から低い評価を得た場合、低評価をした者に対して執拗に攻撃をすることも報告されています。「特権性/搾取性」というのは、自分は特別扱いされるべきである、上位者である自分は他者を操作しても構わない、という考えに関連した要素です。この要素は他者の説得に応じない、過剰に権利を主張する、他者を貶めるなどの行動と関連しており、社会的、対人的な困難さを引き起こす可能性が高いとされています。
ナルシストとリーダーらしさ
なぜナルシストはリーダーになりやすいのでしょうか。自分の能力が高いと信じ、そう振る舞っている人を想像してみてください。能力が高そうに“見え”、自信たっぷりに振る舞う人を外から見ると、私たちは彼らの能力が高くリーダーに相応しいと考えるでしょう。先述したようにナルシストはリーダーになりたいという動機が強く、人々がリーダーらしいと感じる人物像を演じることができます。彼らは自分の(場合によっては誇大妄想的な)考えを他人に提示することが得意なためにクリエイティブである(創造性が高い)と思われがちですが、これまでの研究からナルシスト得点とさまざまな創造性得点の間に相関関係はないか、あっても非常に低い相関しかないことがわかっています。しかも相関が見られた研究は、ナルシスト自身が評定した結果です。人々はその人物の行動や印象から“見かけの”能力を推定しますから、ナルシストやサイコパスの印象操作を見極め彼らの“実際の”能力を判定することはなかなか困難です。
創造性を含めナルシストの能力は、彼ら自身が考えるほど高くはありません。というのは一般的に、自分が考えている自分の能力と実際の能力(IQやさまざまな試験などで客観的に測定された結果)との間には低い相関しかないからです。相関が低くなるのは、測定結果の低い人は自分の能力を過大に評価する傾向にあり、非常に高い人は低く評価する傾向があるためです。ここでの議論はナルシストの能力が低いということではありません。ナルシストには能力の低い人もいれば高い人もいるわけですが、相対的に低くても、彼らの人格特性により、リーダーになる可能性があるということです。彼らの人格特性の中には破壊的リーダーシップを生む特性も含まれています。
