破壊的リーダーシップのリーダー中心論的研究:人格特性論 2. ”成功している”サイコパス 2)成功しているサイコパスと破壊的リーダーシップ
1)サイコパスの下位概念(外部リンク)
2)成功しているサイコパスと破壊的リーダーシップ
サイコパスの特徴の1つとして衝動を抑えられないことを挙げました。しかしこの特性は社会生活を営む上では著しく不適切です。確かに初期のサイコパスの研究は犯罪者が中心でしたが、最近の研究はサイコパス得点の高い人々の中に社会的に適応している人々がいることを示しています。彼らは一般に成功しているサイコパス(successful psychopath)と呼ばれます。彼らのうち企業などで成功している人(ある程度の地位についている人)は特に、組織内サイコパス(corporate psychopath)と呼ばれることもあります。Lingnau, Fuchs, & Dehne-Niemann (2017) は彼らを、「自己中心的で、他者を操作しようとし、共感力に乏しく、後悔の念がなく、良心がない。それゆえに組織の危険因子となりうる」人々であると言っています。
なぜある種のサイコパスが社会の中で成功し、ある種のサイコパスが監獄に入るのでしょうか。1つの考えはサイコパスの下位要素が社会的な適応に影響しているというものです。たとえば、心理学者や弁護士にサイコパスの特徴を説明し、彼らの知人の中でその特徴を持ちかつ成功している人物の特徴を、サイコパス検査と5因子人格検査で調べた研究があります。(5因子人格検査は人格を5つの因子、特性で記述するモデルから作られています。)その結果、実験参加者が成功しているサイコパスと見做した人物たちは、5因子モデル特性のうち誠実性(conscientiousness)が高くなりました。ここで言う誠実性というのは慎重で自己規律ができる人格特性です。社会に順応することに衝動性を抑える能力の高さが重要な役割を演じるのです。
以上のように、誠実性がサイコパス特性を抑制する可能性はありますが、それでもサイコパス得点の高い人は不正会計やインサイダー取引を行いやすいことが知られています。特に自己評価が低い部下に対してはサイコパス得点の高いリーダー(組織内サイコパス)は利己的行動を引き起こしやすいとされています。ここで言う利己的行動というのは、組織の利益や資産をより自分のために使い、仕事上の失敗を自分ではなく部下のせいにするような行動です。サイコパス特性の高いリーダーは部下を選ぶとき、自分に絶対の忠誠を尽くすような人々を選ぶと言われています。
また、組織内サイコパスは侮蔑的管理(abusive management)や部下の離職意図と正の相関があり、部下の動機づけとは負の相関があります。侮蔑的管理とは部下が「リーダーの管理が敵意のある言葉やあるいは態度を通して行われていると感じる」管理方法です。イギリスでの研究によれば、部下に対して行う職場でのいじめは1年を通じて、一般的なマネージャーが平均6回ですが、組織内サイコパスは平均85回報告されています。DTの中でサイコパスがもっともいじめを起こしやすいとされています。いじめの多さはサイコパス得点の高い人が破壊的リーダーシップを取りやすいことを示す1つの指標です。
さらにサイコパス得点とリーダーに選ばれる指標(leader emergency:リーダー発現)とリーダーとして集団をうまく率いる指標(leader effectiveness:リーダー効率)の関係について調べた研究によると、サイコパス得点とリーダー発現には弱い正の相関が、サイコパス得点とリーダー効率には弱い負の相関があることが示されました。このことは一般にはサイコパス得点が高いとリーダーになりやすいけれども、リーダーとしてはふさわしくないことを意味しています。また同時に、サイコパス得点とリーダーシップ効率には中程度の曲線的関係–サイコパス得点が小さすぎても大きすぎてもリーダー効率が低く、中程度がもっとも効率がよい—ことも報告されています(図1)。

